「片づいている」の尺度は人それぞれ。ゆえに掃除をめぐる攻防はときに人間関係を壊しかねない事態にも発展して――(「読者体験手記」より) * * * * * * * ◆天敵は度を越したきれい好き 私は自他ともに認める、片づけられない女だ。むしろ、部屋は多少散らかっているほうが落ち着くといっていい。手を伸ばせば必要なものが調達できる、それが理想の空間だ。私の部屋を他人が見れば、《混沌》にしか見えないかもしれないが、ちゃんと定位置に配された完璧な部屋なのである。 そんな私の天敵は、同じ屋根の下に住む夫。あろうことか、夫は度を越したきれい好きなのだ。眼鏡、時計などの小物はもちろん、服も本も、あるべき場所にきちんと収納している。対照的な性格の私たち夫婦は、整理整頓を巡り、衝突を繰り返してきた。結婚して25年、夫婦史に残る大喧嘩が2度勃発している。 まず1度目は10年ほど前のこと。私には著書を出すという子どもの頃からの夢があり、毎日ワープロのキーをチマチマと叩いていた。目標は原稿用紙200枚。もちろん印税生活に憧れていたけれど、自費出版でも構わない、とにかく本が出したかった。夢のために頭をひねり必死でキーを叩く日々。内容は、主婦が独学で英検1級に合格し、ささやかではあるが、英語の仕事を少しずつこなしていることを綴ったエッセイだ。
◆「私の時間を返して!」 ところが50枚ほど書いたある日、原稿を保存していたフロッピーがないことに気がついた。夫に聞くと、「その辺にあった古本と一緒に捨てたかも」という返答。確かに私は大切なものと、いらないものをいっしょくたにしてしまう癖がある。しかし私は、そこに大事なモノがあることを把握しているのだ。それを勝手に捨てるとは何事か! 当時はワープロにろくなバックアップ機能がない時代。紙に刷りだしてもおらず、私の血と汗と涙の結晶は、夫の無情な分別作業によって、瞬く間に藻くずと消え去ったのである。 消失が判明した瞬間、私はうまく怒りを表現することができなかった。どこかで「これは夢だ」と心の防衛本能が働いていたようにも思う。しかし、しばらくすると憤怒の念が湧いてきた。この50枚の原稿を書くのにどれだけの時間と労力を費やしたと思っている? 夫からすれば、主婦の私は暇に見えるかもしれない。自費出版なんてお金の無駄に思えるかもしれない。けれども、だからこそこの本の出版は、私の《尊厳》に関わる問題なのだ! 「私の時間を返して!」と怒鳴ったが、夫はそんなのどこ吹く風、「どうせそんなもの売れっこないよ」と言い放った。もう、こんな奴と言い合いをしてもしょうがない。怒りをぶつけるように、再びワープロに向かった。 原稿はなんとか本の体裁をなし、無事に自費出版。めでたいことに目標の1000部以上を売り上げ、自分で自分をほめたいと思った。今は第2弾の出版を構想中だ。そのうちベストセラー作家になり、印税生活を送ることを夢見ているが、夫には何も買ってあげないことを固く誓っている。絶対に。
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December 07, 2020 at 10:01AM
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きれい好きの夫は、私の《夢》までキッチリ清掃。血と汗と涙の結晶は、藻くずと消え――(婦人公論.jp) - Yahoo!ニュース
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