10代でブームを巻き起こし、いまや演技派俳優としての道を着実に歩んでいる広末涼子さん。映画「嘘八百 京町ロワイヤル」(公開中)で、なぞの着物美人を演じる広末さんは、役者を「この上なく幸せな仕事」だという。
涙が止まらなかった10代での経験
「役者という仕事の可能性は、無限大だと思います。30代に入ってから役の幅が広がって、この年になっても初めて経験することがたくさんあります」
その言葉どおり、この映画では茶道に初挑戦。映画は茶器がキーとなるので、茶道の所作を一から学んだ。道具も借りて、いつでも茶道の練習をできるよう持ち歩いた。
「私は田舎のスポーツ少女でしたから、『動』か『静』かと言われれば『動』。仕事も短期集中型のようなところがありました。ところが、3年前に陶芸を始めてから『静寂の時』や『静かに集中する』といったことに魅力を感じています。今回の茶道も、新しい趣味や新しい領域が見えるきっかけになったと思いました」
俳優になって25年。転機となった作品は多々あれど、「ありがたいことに10代でたくさんのことを学ばせていただいた」と言う。真っ先に挙げた作品は、初の連ドラ出演作となった「ビーチボーイズ」(フジ系、1997年)。反町隆史さんと竹野内豊さんのダブル主演だった月9のトレンディードラマだ。広末さんは、主人公たちが宿泊する民宿の“看板娘”の真琴を演じた。
「あるお芝居で、まだカメラも回っていないリハーサルの前の段階なのに、涙が止まらなくなったことがありました。その後、ロケバスに戻って思い切り泣いて、うそではなく本当にその気持ちになれることを知りました」
ところが、本番では最初の感情がまったく戻ってこなかった。いきさつを当時のマネジャーに話すと「その感情をどうコントロールしていくかが役者の仕事」と言われたという。
「その通りだと思いました。このドラマでは、役の気持ちになれるという発見があった一方で、結果的には誰にもそれを見せられなかったという自分の未熟さと悔しさを覚えました。でも、その両方の気持ちを感じたことで、芝居がどんどん楽しくなっていきました」
もう一つ、真琴の親代わりである一番大切な人が亡くなるシーンでのこと。
10代の広末さんはまだ、親しい人との別れを経験したことがなかった。そのため、大切な人が亡くなる時は涙が止まらないのか涙も出ないのかがわからない。監督に尋ねると、「君が感じるままでいいんだ」と言われた。
「台本に涙と書いてあるからといって、泣かなくてもいい。泣いたからといって悲しさが伝わらないときもある。子どもがいない俳優に母親役ができないわけではないし、酒を飲まないのに酔っ払いの芝居がうまかったりする……。監督の話がすごく背中を押してくれました。役者は自分が経験したことを表現することだけではないと知りました」
数度の「やめたい」を経て、一生モノの仕事へ
「基本はポジティブで楽観的。嫌なことを忘れるタイプ」と言う広末さん。役者をやめたいと思ったことが数度ある。そうならないための対策は「無理をしないこと」だ。
「やめたいと思った時期に、少しフェードアウトしたこともあります(笑)。無理をして続けていると、自分自身を追いつめて苦しくなってしまったり、納得できないことを割り切ることで後悔したり……。作品選びもいい意味で妥協せず、出演を決めたら全力投球する。それが私にとって、ずっと続けていきたいスタイルだと思っています」
自分の意見をきっちり伝える。厳しい状況なら新たな道を模索する。より良い作品を作るために何をすべきかを考える。なすべきことをなし、万全の準備を整えた作品でも満足いくことがない。それは演じることが大好きだからだと広末さんは言う。
「だからこそ、『もっとうまくなりたい』『次に挑みたい』と思います。この仕事は一生モノだ、と最近になって感じられるようになりました(笑)」
家では仕事のスイッチはオフ
仕事だけではなく、キャリアと家庭のバランスでも無理をしないことが大切だと言う。
「10代はいくらでも徹夜ができたけれど、今は肌や体にこたえるということを実感しながら無理をしすぎないことが大事。仕事も家庭も全部自分でやりたくなってしまいますが、誰かに頼ることや甘えることも必要です。私は最近やっとそれができるようになりました(笑)」
広末さんは家庭に仕事を持ち込まない。脚本を読むのは移動の車の中かカフェ。それを決めたのは、第1子が生まれた後の映画復帰第1作で苦い思い出があるからだ。
クリスマスを目前に別れを告げられるヒロイン役。彼女が人生で大きなターニングポイントを迎えているというのに、家で脚本を読んでも物語がまったく頭に入ってこなかった。
「帰宅すると、子どものことが重要で、『俳優としてこれはいけない』と思いました。ストーリーに入り込めないのだから、脚本を読むこともセリフを覚えることもやめようと決めました」
「私の場合は、家では仕事のスイッチはオフ。短い時間で集中して仕事ができると、プラスに考えていきたいと思っています」
気づいた役者を続ける意味
そんなポジティブな広末さんも、俳優であることの無力さにとらわれたことがあった。東日本大震災の時のことだ。
役者はカメラがないと成立しないし、台本がないとしゃべることができないし、共演者やスタッフがいないと作品ができない。自分には何にもできないと思っていた。
ところが、実際に現地へ足を運んでみるとそうでなかった。広末さんがいるだけで喜んでくれる人たちがいたのだ。
「感動して手を握って涙を流してくれる人がいる。この上なく幸せな仕事だと思いました。私にできることは、役者を続けていくこと。『広末涼子に会ったんだよ!』、『広末が頑張っているから私も頑張ろう』と思ってもらえるように、役者を続けていくことが、誰かのエネルギーの源になれるのかもしれない。私がかつて俳優を夢見ていた時のように、誰かに同じ夢を与えられるかもしれない。そうやって仕事をし続けることが、自分のパワーの源だと思いました」
取材中も輝く笑顔を絶やさない。彼女を見ているだけで幸せな気持ちになっていく。なぜそれほど幸せオーラを漂わせることができるのか。広末さんの人生を美しく生きる方法があるのだろうか。
「毎日精いっぱい生きること。それと、愛情は出し惜しみしない(笑)。家族に対しては当たり前ですが、誰に対しても愛情を注ぎすぎてしすぎることはないと思います!」
◇
広末涼子(俳優)
1980年7月生まれ。高知県出身。94年に芸能界デビュー。97年ドラマ「ビーチボーイズ」(フジ系)を始め数々の高視聴率ドラマに出演。主な映画出演作に「おくりびと」(2008年)、「ゼロの焦点」(09年)、「鍵泥棒のメソッド」(12年)、「太陽の家」(20年)ほか多数。
WOWOWオリジナルドラマ「ワケあって火星に住みました~エラバレシ4ニン~」第4話が2月14日放送予定、また映画「ステップ」が4月3日、「コンフィデンスマンJP プリンセス編」が5月1日から公開予定。
映画「嘘八百 京町ロワイヤル」
中井貴一さんと佐々木蔵之介さん演じるさえない骨董コンビと、広末さん演じる謎の着物美人が、武将茶人・古田織部の幻の茶器を巡って騙し騙されの化かし合いを繰り広げるお宝コメディー。監督:武正晴 出演:中井貴一、佐々木蔵之介、広末涼子、友近、森川葵ほか
(c)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会
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