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【私の視点 観光羅針盤 266】十勝・湖水地方コモンズ 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三 - 観光経済新聞

 コロナ禍の拡大に伴って、Go Toトラベル事業が迷走している。菅義偉首相はコロナ禍で傷んだ地方経済支援のためにトラベル事業が不可欠と主張している。しかし多くの地方はコロナ禍発生以前から少子高齢化や経済疲弊化で地方衰退が進行している。長期的視野の下で抜本的な地方復興策を講じないと、運良くコロナ禍が収束しても、地方衰退に歯止めが掛からない可能性が大だ。

 北海道十勝平野南端の大樹町は酪農や漁業の町であるが、早くから「宇宙のまちづくり」を標榜し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や大学などと連携して未来を見据えた地方復興を図っている。堀江貴文氏が創立した宇宙ベンチャー・インターステラテクノロジー社も大樹町をベースにしてロケット開発に挑んでいる。

 十勝地方は畑作や酪農を中心とした農業が盛んで、大豆や甜菜(てんさい)や馬鈴薯などの有数の産地。十勝地方の開拓の祖は伊豆から1881(明治14)年に入植した依田勉三。依田は晩成社を設立して、十勝で20もの諸事業を手掛けたがインフラが整っていなかったために「失敗に失敗を重ねた」と言われているが、依田が手掛けた諸事業は現在の十勝に根付く産業へと着実に発展している。

 先日、北海道新聞の「湖水地方コモンズ」の記事を読んで大樹町における地方復興の新しい動きを知ったのでここに紹介したい。

 依田の十勝入植から約130年の歳月を経て、2009年に都市計画家の白井隆さんとガーデンデザイナーの白井温紀さん夫妻が大樹町に移住して「湖水地方牧場」を開設。「湖水地方」という名称は十勝海岸に展開する湖沼群地域(四つの大きな海跡湖、いくつもの湿原、沼、河川などから成る)を指す地名として白井隆さんが自ら命名。

 白井夫妻は十勝の美しい湿原に魅了され、英国やイタリアの湖水地方と肩を並べることのできる可能性を秘めているが、人口減少で往年の活気が失われ、豊かな自然が劣化しており、この土地の潜在力に手を貸すために首都圏からの移住を決意。

 白井夫妻はまず「湿原研究所」を開設して、5年間にわたって水辺の自然環境を調べて、海霧がミネラルを牧草地に運び、豊かな乳製品を生みだせることを学び、14年に牧場を開設。湿原動物のイタリア水牛などを飼育しながら、チーズづくりの研さんを積み、19年には日本ソムリエ協会から「日本一のモッツァレラチーズ」に選ばれた。

 今年6月には札幌の人気イタリア料理店で料理長を務めていた藤井教史シェフが牧場に合流し、牧場を訪れる客にフルコース「湖水地方ダイニング」を提供。

 一方、一般社団法人「湖水地方コモンズ」を設立して、酪農の技術体系を向上させ、農業と自然環境の共存共栄、経営健全化を目指して、湖水地方の食の生産者と連帯して農地等の共同経営に着手。さらにアーティストによる作品づくりや首都圏に拠点を置く大手企業との連帯も始まっている。

 12月20日には「湖水地方コモンズオンラインイベント」が予定されている。未来を見据えた「十勝・湖水地方コモンズ」の成功に期待している。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

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December 07, 2020 at 10:00AM
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