(画像提供/千葉さん)
新型コロナウイルスで社会の在り様が大きく変化した現在、新たな働き方が注目されている。都市部で働く人材が、地方企業の仕事にも関わる新しい働き方「ふるさと副業」もそのひとつ。
今回は東京で会社員として働きつつ、長野県塩尻市で外部ブレーンを務める千葉憲子さんにインタビュー。経緯や仕事内容、さらに二児のママとして実感など、あれこれお話を伺った。
連載名:私のクラシゴト改革
テレワークや副業の普及など働き方の変化により、「暮らし」や「働き方(仕事)」を柔軟に変え、より豊かな生き方を選ぶ人が増えています。職場へのアクセスの良さではなく趣味や社会活動など、自分のやりたいことにあわせて住む場所や仕事を選んだり、時間の使い方を変えたりなど、無理せず自分らしい選択。今私たちはそれを「クラシゴト改革」と名付けました。この連載では、クラシゴト改革の実践者をご紹介します。
ふるさと副業を考えたのは、働き方自由な会社だったから
千葉さんは、東京都のIT企業「ガイアックス」の社長室で働きつつ、今年の5月より長野県塩尻市と業務委託を結び、地域課題の解決に取り組んでいる。それは、塩尻市が推進する「MEGURUプロジェクト」の一環で、副業限定の地域外のプロフェッショナル人材が地方と協働で地域の課題に取り組んでいくというもの。その中で、千葉さんはCCO(Chief Communication Officer)に就任。地域外の人と塩尻をつなぎ、関係人口を拡大していくミッションのもと、さまざまな企画立案やイベントを仕掛けている。
本業、副業ともに、「〇時~〇時まで働く」という取り決めはなく、基本成果主義。主に塩尻の業務は週末や夜などにすることが多いが、その境界線はあいまいだ。それができるのも、本業も副業も、業務はほぼリモートだから。東京で塩尻の仕事、塩尻で東京の仕事をすることもある。
「もともと、ガイアックス自体がとにかく働き方が自由な会社で、休日も自分で決めていいし、どこで働いてもいい。もちろん副業もウェルカム。リモートワークが大前提で、会社に出勤するのも週に1度程度。だから、副業を始める前も、実家のある長野県松本市に子ども2人と帰り、1カ月間実家で仕事をしていたこともあります。実際、副業、二拠点、完全リモートをしている社員も多く、私が今の働き方を選ぶのも自然な流れでした」
さらにガイアックスではライフバランスを考えて、仕事半分、報酬も半分といった交渉も可能。千葉さんの場合も、副業ありきで業務量も報酬も上司に交渉している。「トータルで考えると収入は上がりました。夫は会社員をしており、首都圏から離れることは難しく、転職や移住はハードルも高い。しかし、リモート副業なら、私の判断で挑戦できるし、自分のキャリアアップのためにも良かったと思います。夫もこの働き方を応援してくれています」
「息子たちに田舎暮らしを体験させたい」。最初はあくまでも個人的な話から
このプロジェクトに応募した理由のひとつに、子育てで抱いた疑問が大きいという千葉さん。
「私自身は長野の大自然で育ちました。それなのに、息子たち2人を、親が都会で働いているからという理由だけで、都会でしか育てられないなんて変だなと考えていました。移住はさすがに無理だけれど、リモートで副業をすることは現実的な選択だと思いました」
そこで、当初は地元、長野県松本市で地域に貢献できるような仕事はないか考えていたところ、高校時代の友人から、塩尻で外部の人材を募集している話を聞く。
「塩尻は、観光都市の松本や諏訪に挟まれた、人口6万人超のコンパクトなまち。“このままでは人口減。関係人口を増やしたい”という危機感がある分、モチベーションも高かった。規模の大きいコワーキングスペースがそろっていたり、一人の生徒が複数の学校に就学できる”デュアルスクール制度”があったり、ソフト面でもハード面でも受け入れ態勢が整っていました」
自分のなかの「普通」の経験が、想定以上に地域で役立つ場面も
ちなみに、外部のプロフェッショナル人材は、千葉さんのほか6人。その顔触れは国内の大企業の一線で働くビジネスパーソンばかりで、起業家として著名なインフルエンサーもいる。しかも、驚くべきは、千葉さんはお隣の松本市出身だが、他の6人は、長野県にはまったく地縁のない人なのだ。
「地方だからこそできることがあり、その地域の課題に自分の経験やスキルで貢献できたらと考える人材はたくさんいるんだなと改めて思いました。例えば観光促進のために、コンサルタントを外部の企業に依頼すれば、多額のコストがかかる上、多くの企業は契約期間が終了したらいなくなってしまう。そういう痛い体験をしている自治体は多いと思います。でも、移住ではなくリモートで副業という形なら、こうした人的財産をフル活用できるのではないでしょうか」
しかし、多くの人は「そんなに華々しいキャリアもスキルも自分は持っていないから無理」と尻込みしてしまうのでは? という質問に、千葉さんは「そんなことはありません」と即答。
「私だって普通の会社員です。でも自分が通常の業務と思っていたことも、案外、地方や役所では有難がられることも多いです。例えば、私は限られた時間で最大限の効果を出すために、自分の業務を分散し、アウトソーシングすることも多いんです。それは、私には当たり前だと思っていたのですが、地方では個人に業務が集中し、「〇〇さんにしか分からない」「〇〇さんが動けないのでそれはストップしている」という事態になることも多いんです。そんなとき、「この業務のこの部分は別にこの人でなくてもいいのでは?」と整理し、スピードを上げていくのも私の役目。本業での、なに気ない仕事のアレコレが思いのほか役立つことが多いと実感しています。もちろん、逆に塩尻での気づきが本業に役立つことも多々あります」
コロナ禍の不自由も逆手にとる。オンラインでのコミュニティづくりが進んだ
募集自体はコロナ禍の前で、現在は、当初の予定とは変更を余儀なくされた部分も大きい。
「今はオンライン上でのコミュニティが主です。もともと塩尻にはなんの縁もなかった人が、トークイベントのゲスト目的で参加し、興味を持ってもらうなど広がりを見せ、今では塩尻市の「関係人口創出・拡大事業」でのオンラインコミュニティ『塩尻CxO Lab』という形に。さらに、実際に地元の中小企業で複業するなどのもっとコアに地域課題に参加していただく有料会員も定員以上の応募が集まりました。この状況下で制約は多いけれど、リモートやオンラインの動きが一気に加速し、距離を感じなくなったことはプラスですね」
千葉さん本人にも副産物はあった。「オンラインイベントでのファシリテーションを何度も務めるうち、スキルが上がったと思います。参加してくださる方には、こうしたオンライン上に慣れていない方もいます。本業とは違うデジタル環境のなか、場数を踏んだことで突発的なトラブルに対応できるようになりました」。その結果、現在は、本業、副業とは別に、こうしたファシリテーションを仕事として引き受けることもあるそう。
ワーケーションがもっと進めば、暮らしはもっと豊かになる
もちろん課題もある。「私が長野で仕事をする間、子どもたちは松本の実家の両親たちが預かってくれましたが、それができない人も多いはず。子どもがいる人でも二拠点生活が可能なように、預け先の確保は課題です。また小学校に入ると子どもたちも長野に行けるのは長期の休みだけ。親も二拠点で働き、子どもも二拠点で学ぶことができれば、二拠点や副業がもっとスムーズになるのではと思います」
特に、首都圏からのアクセスのしやすさから、山梨、長野は二拠点目としてのポテンシャルが高い。「例えば甲府から松本までのエリアが“ワーケーションベルト”として、コワーキングスペースを充実させて、旅をしながら仕事をしてもらえるなど、相乗効果で盛り上がったらいいですね」
今後は、地域外の人材を地域に活用するこの塩尻の試みを、他の自治体へ広げていきたいと考えているそう。
「同じような課題を持つ地方は多いはず。何かしら地域に貢献したいと考えている人は多いので、受け入れ側の意識が変われば、塩尻のフォーマットが他の地方自治体にも応用可能だと思います。それが今のところの野望です」
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December 02, 2020 at 04:00AM
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